1.『選択と集中』のカギとなるセグメンテーション
1.1. 情報量に翻弄される顧客と企業
グローバル化と情報化の進展に伴って、市場環境と顧客ニーズは複雑化・多様化しています。こうした状況に応じた数多くの商品、サービスが toB および to Cの顧客(≒消費者)に提供されており、顧客が接する情報の量も増加しつづけています。
企業にとっては、競合の商品、サービス、情報が多すぎることが顧客や潜在的な顧客へのリーチの障壁となっています。一方で顧客が「より適した選択」をのぞんでいても、多すぎる情報や選択肢によって本当に必要なものに接触する機会が失われています。また、既存顧客であってもメディアでの接触頻度がより高い商品やサービスにスイッチされてしまうことも少なくありません。
上記のような環境下で、企業が顧客にリーチし、よりよい選択を実現するためには「選択と集中」が求められます。まずは「顧客のセグメンテーションによる選択と集中」があり、その上で「マーケティングリソースの集中と選択」があります。どちらにも今回のテーマである「顧客セグメント」が前提となっています。
1.2. 顧客のセグメンテーション
広く実践されているように顧客セグメンテーションとは、顧客の特性、ニーズ、行動パターンなどに基づいて市場を細分化します。顧客のセグメンテーションによる選択と集中は、戦略的に重要なセグメントを選び、そこに焦点を当てることを指しています。
このアプローチには主に3つの機能を期待できます。
ニーズの的確な把握: 特定のセグメントへの集中は具体的なニーズ、欲求、課題の深い理解を可能にします。to B においては効果的な問題解決の提供、つまりは顧客の業界や職務特有の課題に対するソリューションが可能になります。to C では、顧客のインサイトに応える製品やサービスの開発への道標となります。
市場でのポジショニング強化: 上記の「ニーズの的確な把握」にも結びつきますが、特定のセグメントへの理解の深さは専門性と信頼の獲得につながります。to B では業界や職種に特化したソリューションプロバイダーとしての地位の確立。to C では顧客のライフスタイルやニーズに共感できるブランドとして認知され、競合との差別化と顧客の選好獲得につながります。どちら場合でも顧客との長期的な関係の構築や、持続可能な競争優位性の源泉となります。
カスタマーエクスペリエンスの向上: セグメントの特性に応じたカスタマイズにより、購買前から購買後まで一貫した顧客体験の提供が可能になります。to B では業界特有のプロセスや要件に合わせたシームレスな対応が実現し、顧客の業務効率向上に寄与します。to C においては顧客のライフスタイルや価値観にそった、きめ細やかなサービスを展開でき、感動や満足度の向上につながります。これらは、より深い顧客との関係性構築とロイヤルティの醸成に貢献します。
これらの機能は相互に作用しすることで相乗効果をうみ、企業の持続可能な成長と顧客満足度の向上を同時に実現する戦略的な鍵となります。
1.3. マーケティングリソースの選択と集中
現代のマーケティング環境は複雑化しており、多様な顧客ニーズ、媒体の分散化、競争の激化など、様々な課題に直面しています。すべての顧客や市場に均等にリソースを配分するのは非効率的であり、効果も限定的です。
そこで、効果的なマーケティング戦略を展開するためにはリソースの集中と選択が必要であり、そのためには適切なセグメント選定が求められます。この「マーケティングリソースの集中と選択」においては、顧客セグメントが以下のように重要な役割を果たします
効率的なリソース配分: マーケティングリソース(予算、人材、時間など)を、セグメントに集中投下することができ、効率的に経営資源の活用が可能となります。
メッセージの最適化: 各顧客セグメントの特性、ニーズ、価値観に合わせて、マーケティングメッセージをカスタマイズすることができます。これにより、より響くコミュニケーションが可能となり、顧客の関心や共感を得やすくなります。
適切なチャネルの選択: 顧客セグメントごとの媒体接触習慣や情報収集行動に基づいて、最適なマーケティングチャネルを選択できます。これにより、限られたリソースで最大限の顧客リーチを実現することができます。
タイミングの最適化: 顧客セグメントの行動パターンや購買サイクルを理解することで、最も効果的なタイミングでマーケティング活動を展開できます。これにより、顧客の購買意思決定プロセスに適切に介入し、影響を与えることが可能となります。
顧客セグメントに基づく「マーケティングリソースの集中と選択」は、単なるコスト削減策ではなく、マーケティング効果の最大化と顧客との強固な関係構築を同時に実現する戦略的アプローチです。
この戦略を成功させるためには、継続的な市場分析とセグメントの再評価が不可欠です。市場環境や顧客ニーズの変化に応じて柔軟にアプローチを調整することで、長期的かつ持続可能なマーケティング成果を達成することができるでしょう。
1.4.ターゲットセグメントから、戦略がはじまる
ここまでで、ご紹介した機能や役割からわかるようにセグメンテーションは各種の施策における前段階にあたるものです。ビジネスデータをもとにセグメントを選定し、戦略の立案から価値創造までのフローをおこしたものが図1.4です。
図1.4. ターゲットセグメント
データ分析にもとづいたセグメントの選定と深掘りから戦略を立案し、実行。価値創造プロセスを通じて、顧客と企業に価値のある関係性を構築します。また、このフローは一方通行ではなく、循環的なプロセスでもあります。市場環境の変化や新たな洞察に基づいて、セグメントの再評価や戦略の見直しを定期的に行うことが重要です。
とはいえ、セグメンテーションは手段であって目的ではありません。目標は『選択したセグメントに対して真の価値を提供し、持続可能な事業成長を実現すること』です。そのためには得られた洞察を組織全体で共有し、あらゆる事業活動に反映させていくことが重要です。
セグメンテーションを起点とした戦略立案と実行のサイクルを確立によって、変化と競争の激しい環境下でも、常に顧客中心のアプローチを維持し、競争優位性を築くことが可能となります。
次の記事へつづきます。
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